金原ひとみ『ハイドラ』*3を読んだ。

「そんなに簡単に、簡単な人間に戻れると思いますか?」
「簡単な人間って言い方はどうかと思う」
「楽しい事を楽しい事と感じたり、悲しい事を悲しい事と感じたり、腹立たしい事を腹立たしいと感じたり、そういう一足す一は二、っていうような人間の事です」
「なにそれ」
「一足す一はゼロみたいな、歪んだ図式で世界を捉えていた人が、常識的な世界に戻るのは、難しいと思います」
「歪んだ図式で生きていても、一足す一は二っていう常識を捉えてはいるよ」
「そこに違和感は感じませんか?」
──金原ひとみ『ハイドラ』

感じます。毎朝七時半を告げる携帯電話のアラームで今日に呼ばれて、その他大勢と一緒にホームの列に並んでその他大勢になると満員電車があっちへ運んでくれて、こっちではパソコンの画面いっぱいに死ね死ね死ねと文字を打ち込んで恍惚に浸ることもなく、彼女のキスと温かいご飯がすでに詰まっている箱にもう一度詰め戻されると。麻痺します。

Is this heaven or hell?
Where is this?
I can't tell, can't tell the difference
(訳詞)
ここは天国?それとも地獄?
どっちなんだ?
悪と正義の区別もつかない
──ASPARAGUS『SPEAKIN' UP』

KAPPA I

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